ホワイトロッドⅢ
2008 年 8 月 9 日 土曜日「久美がいるのといないのとじゃ、どう違うんだ?」
質問を発したのは龍次。
「……安心感が全然違う。階段とか、坂とかでも、前もって教えてくれるし」
「ほなら大丈夫やんけ?」
「あのな、そりゃあくまで久美がいるのといないのとで比べたらの話だろ? どこに何があるか、全然わかんないんだぜ?」
「久美ちゃんにこうして欲しい、とかいうのはないかい?」
先生の問いに、明美はやや考え、
「……手、引っ張られるよりは、腕組んでもらった方が歩きやすいかもしれない」
そう言うと、早速久美は手を組み、歩調を合わせ始める。
「しっかし、なんや、学校ってこない不便な所やったんか? これじゃ目ぇ見えない人来た時、どないするんや?」
「あと、車椅子の人も大変だろうな」
「バカ。そもそも学校にそういう人が来るかよ」
友義、健二、龍次が自分の意見を発し始める。
「でもさぁ、目隠しするとわかるけど、不便に出来てるよ、学校って。車椅子だともっと大変じゃないかな?」
「……そうだね……こうやって助け合わないと、歩くのも大変だし」
明美に同調するように久美も頷く。先生はそれに補足。
「学校もそうだけど、他の建物でも、大概は不便に出来ているんだよ」
「金ないんやろな、日本も」
「ないんじゃなくて、ケチってんじゃないのか?」
「……どっちでも良いだろ、そんなの」
龍次はブスッとしつつも、
「大事なのは、そういう人いたら、助けろって事だろ?」
捻くれた口調で呟く。
「……大変だってのは、わかったからな……」
どれだけ苦労しても、自力だけでは体育館に着けなかったことが悔しいのだろうが、龍次はそれでもそう結論付けた。
「先生、もう時間無いよ」
(あー……感想文と地図はまた次だな)
「よし、じゃあ教室戻ろう!」
(……とりあえず、第一段階はクリアか?)
とにかく、今は行動するしかない。手をこまねいていても悪化するだけだ。
そう考えて、一か八か的にこの授業をしたのだから、まず、上手くいったと思っておくべきだろう。
人を思いやれれば、他人に迷惑をかけようということは少しずつしなくなるはず。それが自然と心がけられるようになれば、学級崩壊も止まるかもしれない。
子ども達の悩んでいる顔を見て、先生は自分の考えに少しばかり自信を持った。